コラム

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乳児院と養子縁組

 

 先日、ある大阪の乳児院で養子縁組の受け入れ待つシュン君(仮名・3歳)の生活と、養子縁組を希望するご夫婦(妻 46歳・夫 47歳)の生活に焦点をあてたドキュメント番組を見ました。

 

 養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2つがあります。普通養子縁組とは、養子と実親との親子関係を存続したまま、新たに養親との親子関係をつくる縁組であり、特別養子縁組とは、養子と実親が戸籍上の親子関係を断ち切り、養親が養子を実子にする縁組のことをいいます。これらの養子縁組をすることのできる要件は、民法で定められています。

 

 普通養子縁組についての主な要件は、

① 養親は、独身でもよいが成年でなければならない。 

② 既婚者が未成年者を養子とする場合、必ず夫婦共に養子縁組をしなければならない。

③ 養子が、未成年者である時は、家庭裁判所の許可を得なければならない。

 

 特別養子縁組についての主な要件は、

① 養親は、必ず既婚者でなければならない。

② 必ず夫婦共に養子縁組をしなければならない。

③ 夫婦の一方は、25歳以上でなければならない。

④ 養子は、6歳未満でなければならない。

です。

 

 乳児院とは、虐待や育児放棄などで親と別れ暮らしている子供達(0歳~3歳未満)が暮らす施設です。新しい親を求めて養子縁組を待つ乳児院で暮らす子供達は、全国に年間3万人ほどで、その数は年々増えているそうです。

 

 番組は、乳児院の子供の数が増加している現状の裏側には、ただ単に虐待・育児放棄されている子供の数が増加しているだけでなく、他にも原因があると報じています。それは、民間の養子縁組あっせん団体が定めた上記法律以外の厳しい要件であり、この要件が足かせとなって養子縁組への道のりを困難にしているということです。事実、番組で取材したシュン君は、生後8ヶ月から養子縁組先を探しているのですが、3歳11ヶ月になった今も養子縁組先の家族は見つかっていません。

 

 その厳しい要件のうちの1つに、養親と子供との年齢差が40歳以内でなければならないというものがあります。( 「家庭擁護促進協会」の規定 )理由は、子供が成人になるまでに親が60歳以下でなければ、経済的・体力的に受け入れた子供を成人にする責任をまっとうすることができないからとのことです。

 

 番組で取材したご夫婦は、奥様が46歳で、ご主人が47歳でした。つまり、養子は6歳以上でなければならないということです。しかし、ご夫婦は乳児をご希望されていました。子供の年齢が高いと子供が気を使い、家庭に馴染んでくれないのではないか・・・との不安があるからです。

 

 実際、施設で長く育った子供を引き取った家族は、「ためし行動」と言われる行動に悩まされるそうです。「ためし行動」とは、わざと何回もご飯をひっくり返したり、洗面場を水浸しにしたり、同じお菓子を大量に買わせる等、養親を困らせること繰り返し、どんなにわがままに振舞っても、自分を受け入れてくれるか親を試す行動です。この行為は、半年から1年続くため、夫婦のどちらかが仕事をせずに育児に専念しなければなりません。

 

 このような現象を不安に思うご家族は、乳児の受け入れを希望されます。しかし、日本では6組に1組のご夫婦が不妊問題を抱えており、養子縁組をお考えになるご夫婦の多くは、不妊治療が実らなかった40代後半のご夫婦です。

 

 このように「家族を求める子供」と「子供を受け入れたい家族」の各々の条件のミスマッチが日本の養子縁組の促進を阻んでいます。去年「家庭擁護促進協会」があっせんした養子37人のうち、養子縁組が成立したのはその半数以下の15人でした。

 

 さらに、日本には全国から養親を募集する仕組みがないそうです。シュン君も、大阪の「家庭擁護促進協会」に登録しているだけで、新聞の地方版での呼びかけしかできませんでした。結局、どうしてもシュン君に「自分だけの親」を見つけてあげたいと願う乳児院の先生は、シュン君を国際養子縁組のあっせん団体「日本国際社会事業団」に登録することにしました。海外では、養親の年齢制限がなく、日本より広い範囲で家族を募集することができます。統計を見ると、「家庭擁護促進協会」は設立50年で1,000人以上の養子縁組が成立し、「日本国際社会事業団」は、設立60年で1,700人以上の養子縁組が成立しています。

 

 数年前にテレビで見た、ある発展途上国のドキュメント番組を思い出しました。障害を持って生まれてきた子供を、貧しさゆえに山や田に遺棄する習慣がある某国についてのお話でした。番組の中で、ある老夫婦がおっしゃられた忘れられない言葉があります。子宝に恵まれなかったご夫婦は、十数年前、農作業に行く途中で、あぜ道に遺棄された脳性まひの赤ちゃんを見つけ保護し、貧しいながらもご夫婦の子供として育て上げられました。そのことを知った番組レポーターが、「さぞかし、ご苦労されたでしょう。」と老夫婦に言葉をかけました。すると、老夫婦は笑いながら、「苦労? 苦労なんてとんでもない。私達は、この子に子供を育てる喜びを与えてもらいました。おかげで私達の生活は豊かになりました。この子には、本当に感謝しています。」と答えられました。

 

 実子だから、裕福だからという理由だけで、子供が幸せになるという神話が既に崩壊していることは、実親の育児放棄・虐待が原因で年間3万人の子供達が乳児院で暮らしている現実から見て明らかです。血の繋がりがないということだけで「子供が成人するまでに親が60才以上になると、経済力に乏しいだろう、体力が衰えているだろう。だから子供を幸せにすることができない。」という固定概念で定められた規制が、「切実にママとパパを欲している子供」と「切実に子供を欲している夫婦」が巡り合う道を阻んでいるという現実に大きな疑問を抱きました。

 

 

平成24年10月9日

司法書士 酒 井 元 子

 

相続に関するよくある質問